夢見るつばめ vol.4

日詰にたたずむ、みんなの家

100年もの間、日詰を見守ってきた平井邸。
そこに宿る想いは時代を超えて巡っていく。
レトロで濃厚な時間が過ごせるこの場所で
また新たな歴史が紡がれ始めた。

酒のまち紫波町は、至る所で酒への愛があふれている。

コロナ渦で遠のいていた酒イベントも徐々に復活し、大切な人たちと楽しくお酒が飲みたいという願いも少しずつ叶うようになってきた。

酒を愛することは、紫波を愛することであり、それは紫波で暮らす自分の人生を愛することにつながる。やや大袈裟だが、そう思っている。

新たにスタートした日詰平井邸

日詰商店街のシンボルとも言える「平井家住宅」は、2016年に国指定重要文化財に指定された大正レトロを感じる趣き深い素敵な建物だ。邸宅完成から一世紀を超えた101年目にあたる今年5月、「日詰平井邸」として気持ちを新たに一般公開という晴れの日を迎えた。

そこに日本酒の角打ちも同時開催となれば、私のような酒を愛する人間は行かずにはいられない。宴だ宴だ!

日詰平井邸は、建物の価値はもちろんのこと、紫波の地域性・経済活動に大きな影響を与えてきた歴史がある。江戸へのお米の保管や移送、代官所との連絡調整や船頭手配、そして醸造業を営み、近代以降はそれを主生業として域内の杜氏を雇い入れており、この場所は南部杜氏の一大拠点となっていたのだ。

令和になった今、そんな場所で上手いお酒が飲めるのだから、もうどうにも止まらない。

そんなわけで、飲む前からほろ酔い気分でふらっと行ってみた。

日詰商店街に面した入口には、かっこいい旗が出ていて更にテンションが上がる。この奥にどんな風景が広がっているのか。興奮のあまり、手指の消毒用アルコールすら、今の私には酔っぱらう原因になりそうだった。

手指の消毒と受付をしながらも、目の前で注がれていく利き酒セット(酒の間パレット)から目が離せない。

「どんなお酒が好きですか?」と一人一人のお客さんに丁寧に聞きながら、その人の好みであろう日本酒を選んでくれる、日詰平井邸の平井佑樹さん。その横には奥様が笑顔でお手伝いをされていた。思わずこちらまで笑顔に。

(平井佑樹さん・彩織さん)

「日詰平井邸として気持ちを新たに家族と支えていただいている方々による取り組みが始まってから初の一般公開でした。実は最後の一般公開はコロナ禍以前ですから、約2年ぶりとなります。 」

佑樹さんは、平井家としてこの家でたくさんの時間を過ごしてきた。

それだけに今回の一般公開にかける思いは誰よりも強い。

「国指定重要文化財になった平井邸ですが、観光地としてよりも、この家で何が生まれ、何を体験するかを大切にしています。私はこの家が大好きなので。皆さんにもこの家で時間を過ごしてほしいと思っているんです。」

昨年開催されたクリスマスマーケットを皮切りに、平井邸にまちの人が集い、思い思いの時を過ごせるイベントや、展示会などを思いつく限り挑戦しようとする佑樹さんの姿勢にはいつも刺激をいただく。

「家族の時間を見守ってきた平井邸の空間や、そこに流れる穏やかな時間をより多くの方に体験していただくため、平井邸フォトウェディング、平井邸アニバーサリーフォトのサービスも開始しました。

ただ、築100年を超える平井家住宅は課題も多く、継続的な取り組みと多くの方のご協力を必要としています。そんな中で2月から募集を開始したサポーター登録は5月には700名を超え、たくさんの方に応援していただいていることに感謝する毎日です。」

みんなの家としての空間

今回の一般公開では、日本酒の角打ちの他にも、さまざまな企画が用意され、訪れた人たちはそれぞれの時間を楽しんでいた。居間で友人たちと利き酒を楽しむ人、淹れたてのコーヒーを一口一口大切に飲むおばあちゃん、子連れで草木染め体験を楽しむ人、ギターの弾き語りをする人、広間や庭を走り回る子どもたち。まるで親戚一同が集まったような、ほっとする光景が広がっていた。

(YOKOSAWA CAMPUS)

(紫波里山ノクラシ実験室)

(あそびこむ)

その光景はまさに「家」であった。

イベントに足を運び時間を過ごす度に、ここがなんだか実家のように思えてくるから不思議だ。平六商店の法被を纏い、訪れた人にお酒を注ぐ佑樹さんの笑顔がまぶしい。日詰平井邸は、こうしてたくさんの人の想いを受け継ぎながら、今年101年目の歴史を紡ぎ出している。歯車がまた動き出したような瞬間を今まさに目の当たりにしている。

新しく始まった角打ち「酒の間」とは?

「酒の間|sakenoma」は岩手県の地酒はもちろんの事事、全国の銘酒を取り寄せて角打ちスタイルで飲み比べをお楽しみいただくイベント限定の日本酒バーです。毎週土曜日の盛岡材木町よ市にも出店しており、平井家と縁の深い日本酒の美味しさを通して平井邸を知っていただく事を目的にしています。当日もよ市でいつもご来店いただくお客様も平井邸に多くお見えになりました。」

日詰を拠点に、盛岡、そして岩手中に日詰平井邸のことが知れ渡っていってほしいな……。
そう願いながら、右手には「若波」が並々と注がれたコップを離せない私であった。

■話を聞いた人:平井佑樹

19911012日生まれ。岩手県盛岡市出身。

大学卒業直後から生家の菊の司酒造(株)にて日本酒造りに打ち込む。

20221月に同社を退職し、自身のルーツである日詰平井邸での活動を開始。

 

日詰平井邸 オフィシャルサイト www.hiraroku.com/

日詰平井邸 公式 Instagram www.instagram.com/hiraitei1921

日詰平井邸 公式 Facebook www.facebook.com/hiraitei1921

 

 

■記事を書いた人:伊東 唯

1986124日生まれ。秋田県能代市出身。

日本酒スペシャリスト・発酵食品ソムリエを取得。2児の母。

酒好きのカメラ友達募集中。

酒をつぶやくTwitterhttps://twitter.com/saca_a

 

 

■写真を撮った人:佐々木彩香(ササキアヤカ)

1993517日生まれ。

紫波町出身。フォトグラファー。

日常を切り取ったような自然体な写真が人気。

Instagramhttps://www.instagram.com/tokiomoi_shiwa/