夢見るつばめ vol.7

おつまみが育つ畑

佐比内をメキシコの飾りで彩る畑。
ホップも植えてあるという噂のおつまみ畑では
お酒と一緒になることを夢見る野菜たちがすくすくと育つ。

歓迎ムード漂う楽しい看板

今年の春のこと。紫波町の東部、佐比内エリアに可愛らしい畑が現れた。

「welcome」「なつかのおつまみ畑」という看板と、メキシコを思わせるギラギラした装飾。

畑のような、公園のような、不思議な空間でせっせと野菜のお世話をするのは、里山リノベーション担当として地域おこし協力隊に着任した岡本夏佳隊員である。

麦わら帽子が似合う岡本さん

弘前出身の岡本さんは、弘前でりんごとお米を作っている祖父母の暮らしに憧れ、将来は古民家で農業と共に暮らすことを夢見ていた。岩手大学の農学部に通いながら、農村での暮らしの入り口を見付けられずに悩んでいた頃、夏休みのインターンシップで紫波町役場を訪れる。

職員と一緒に空き家を見て回ったり、リノベーションについて学びながら紫波の人々と関わるうちに、どんどん紫波町に惹かれていった。「ずっと探していた農村での暮らしに近づけるかもしれない!」という期待を胸に、インターンシップに来てから一年後、地域おこし協力隊の里山リノベーション担当に着任。なんとご家族総出で紫波町への移住を決意したのだった。

ご家族で移住するという大胆さがすごい!お母さんの反応は?

「高校生の時、突然大学に行かずに農家になると言った時から、特に否定することなく好きにしたらいいと言ってくれました。ありがたいです。紫波に行くという突拍子もない報告にも特に驚かない様子で、我ながら肝が据わったお母さんだな~と思いました(笑)。

まさか家族ごと紫波に移住するとは思ってなかったけど、付いてきてくれてありがとうと伝えたいです。母自身も、紫波に来てから古本屋を始めたり、古本屋の師匠に出会ったり、なんだか楽しそう。飽きないうちは一緒に佐比内暮らしをエンジョイしていきたいです。」

岡本さんは、四季折々の里山の暮らしを発信したり、体験してもらえるイベントを企画運営する中で、同世代の若者に農村での生き方を伝えている。実際に農村に暮らしながら、その魅力を同世代に同じ目線で伝えていく。まっすぐに暮らしを楽しむ岡本さんを見ていると、なんだか私も野菜を育ててみようかなと思ったりするので不思議だ。そしてイベントにはお母さんがそっとそばに寄り添っていて、お母さん自身も絵本の読み聞かせをするなどとっても活動的!岡本親子の楽しそうな空気は、その場をカラフルに変える力がある。いつになっても、自分の好きなことに挑戦し続けたいものである。

岡本さんは、いつも畑にいる。おいしそうな名前の畑で岡本さんが育てている夢について聞いてみた。

メキシコを思わせる装飾がかわいい

おつまみ畑って楽しそうな名前!畑をやろうと思ったきっかけは?

「去年の夏に佐比内に引っ越して思いました。ここで暮らしている人たちは、農家でなくても当たり前のように家のすぐそばに畑を持っていて、自分の食べたいものやお花を作っています。周りを畑に囲まれた環境で暮らしているうちに、せっかくここで暮らしているのだから自分も畑をやりたい!と思うようになりました。

ぷっくりと成長中のトマト

佐比内で暮らす中で、野菜を作っている近所の方から、よくおすそ分けをいただくようになりました。すぐ近くの産直では新鮮でおいしい野菜が手に入ります。気が付くと、今までよりも野菜がたくさん食卓に並ぶようになりました。

お酒が大好きで晩酌をすることが多いのですが、「焼いただけのナス」や「味噌をつけただけのきゅうり」がめちゃくちゃおいしくて、お酒と一緒に食べるともう最高だということに気づきました!

地元の子どもたちに手伝ってもらった看板

それまでは農業は農業でも果樹をやっていきたいという思いが強く、野菜の栽培にはあまり興味のなかった私ですが、野菜が最高の酒のつまみになると知った途端、自分で作った野菜とおいしいお酒を一緒に飲むという最高の未来を想像してわくわくしてきました。こうして、種をまく段階から“これはあれにして、あのお酒と食べるのが良いかな~”と、その最高の未来を想像しながら育てる“おつまみ畑”をはじめました。」

青空をビニールの鷹が舞う
せっせとお世話をする岡本さん

そのうちに出張酒場も始まりましたね!

「はい。同じ協力隊の南條さんが運営するYOKOSAWA CAMPUSのカフェの一角を間借りして、“おつまみ畑出張酒場”にチャレンジしています。枝豆やトマト、ナスなどのおつまみ畑の野菜をおつまみに、地元のお酒を中心として提供しています。おつまみ畑の野菜たちは、最後はおいしいお酒と一緒に食べてほしいという思いで育ててきました。なので、自分の畑でその日に採れた野菜とおいしいお酒を人に提供してみたいと思ったんです。紫波に来てから、周りの人がほとんど酒好きという環境も、私を動かしています(笑)」

おつまみ畑で育った野菜。紫波のお酒とぴったり!
熱燗DJつけたろうさんをゲストに呼んだイベントも開催。角打ちさながらの雰囲気!

おいしすぎる枝豆に思わず目を閉じる

なぜ、この場所で?

YOKOSAWA CAMPUSのオーナーである南條さんの行動力・周りを巻き込む力に、たくさんの人が影響を受けています。自分のやりたいことと、周りの声のはざまで将来に悩んでいた私にとって、南條さんの「意地でも紫波に食らいつく」行動力に衝撃を受けました。

YOKOSAWA CAMPUSは、私のように南條さんに惹かれて紫波に集まってくる人々が交じり合う交差点のような場所です。いろんな場所から、いろんな方向へ進む途中の若者の通過点。交じり合い関わり合う中で、自分が行きたい方向にポンっと背中を押してくれるような、行くべき場所を決めることができるような、特別な場所だと思います。そしてコーヒーがおいしいんです。同じく間借りでカフェをする方もいたりして、自分のやりたいことにまっすぐ行動することに自信が持てます。

私が協力隊の活動を通じて実現したいのは、自分と同じように将来農業をやっていきたい人や農村で何か挑戦したい人の入り口を作ること。私がそうだったように、外にいるとこの入り口を見つけることが難しいと思います。私が農村の中に入り口を開いていても、そこにたどり着いてもらえなければ意味がないかなと。いきなり畑に来てもらうのは少しハードルが高いので、畑に巻き込む何かのきっかけのなればと思って商店街で開く農村への入り口として、YOKOSAWA CAMPUSで酒場を始めました!」

お酒を楽しみながら、農業についても考えてもらえそうですね

農業と酒は強いつながりがあると思っています。ワインはブドウからできているし、日本酒はお米から、ビールは麦とホップからできています。畑で採れた野菜と、お米からできたお酒の相性が抜群なのは、どちらも同じ畑から生まれたものだからだと思います。

 農村でのなりわいの選択肢の一つとして農業があると思いますが、その他にも様々ななりわいを持つ人や、農とその他の仕事を組み合わせて暮らす人が増えていったらいいな、そんなまちで暮らせたら楽しいだろうな、と思っています。「酒のまち紫波」ですから、農業と酒造りを組み合わせてなりわいとして生きていく「酒農家」という選択肢が生まれる気がしてとてもワクワクしています!

ビールの文字と一緒に書かれた秘伝豆(枝豆)地元の方にも美味しいと評判に

紫波町の農村暮らしは大変ですか?

「毎日楽しいです!まず畑仕事をしている時間が大変ですが、とても好きなので楽しいです。農作業の日は一日働いて、近くの銭湯に行って、野菜をつまみにお酒を飲んで寝るという感じです。紫波にいると、毎日どこに行っても誰かしら知り合いに会います。仕事終わりに商店街に行ってコーヒーを飲んでいると顔見知りが現れて、少ししゃべって帰るというのも好きです。

紫波でショッピングすることはあまりありませんが、たまに盛岡のお気に入りの店に行ってお気に入りのものに出会うとときめく気持ちを思い出します(笑)

この感じがとても居心地がよくちょうどいいです。盛岡に住んでいた時よりも、盛岡が好きになりました。」

岡本さんの目標は何ですか?

「農業はかっこよくて夢のある仕事だということを特に同世代に伝えていきたいです!そのためにまず私自身が楽しく働き、しっかり稼げる農家になることが今の目標です。そして、農業に興味のある若者や学生が少しでも農業や農村、畑を身近にして、農との関わり方を模索できるような場を作りたいと思っています。

岡本さん手作りのZINE

何もない状態の私が農業を始めるのは自分ひとりでは難しいことだらけです。技術を身に付けること、農地を探すこと、ひとを繋いでもらうことなどなど。地域の皆さんや先輩方にたくさんお世話になりながら、今は奮闘中です」

畑の技術を助けてくれる近所の農家さん

協力隊のメンバーの存在は頼もしいですね!

「勝手に4姉妹のように感じています(笑)私はお姉ちゃんが欲しいという憧れがずっとあったので、紫波に来てお姉ちゃんが一気にたくさんできてうれしいです。4人それぞれ、やっていることも性格も全く違ってバラバラなのですが、よこきゃん(「YOKOSAWA CAMPUS」の愛称)に集まってコーヒーを飲んだり、たまに女子会をしたり、お互いのイベントに参加し合ったりととても仲良しです!休日も一緒にいることが多いのでほぼ毎日会っています(笑)。そして、周りを巻き込みながら確実に前に進んでいる皆さんが本当にかっこよくてとても尊敬しています。」

―紫波町での協力隊を目指している方がいたら、何と伝えますか?

「まずは紫波町に来てみてください。3日もいれば紫波町の謎の引力に引っ張られて住みたくなっているはずです。実現したいことを、堂々と挑戦していけるまちだと思います。」

毎日キラキラと輝く目で暮らしを楽しむ岡本さん。

“若者がチャレンジする町”紫波町に、またひとつ顔が加わった。


*「なつかのおつまみ畑出張酒場」の営業日や最新情報は、岡本さんのinstagramからご確認ください。
畑の野菜がなくなり次第、冬季休業に入る予定です。

紫波町では現在、地域おこし協力隊を募集中! あなたの“好き”がまちをつくる。
私たちと一緒に新たなチャレンジを歩み出しませんか?
募集ページはこちら

話を聞いた人

岡本夏佳(オカモトナツカ)

1999716日生まれ、蟹座、AB型。

青森県弘前市出身。だけど青森に住んだことはありません。

大学三年生までの約17年を、盛岡で過ごす。

高校三年生のボート部引退後、突然農家を目指し始め、気付いたら紫波町に移住していた。

Instagram

https://www.instagram.com/anzoo_koshiann/

https://www.instagram.com/shiwa_satoyama12/

 

記事を書いた人

伊東 唯(イトウユイ)

1986年1月24日生まれ。

秋田県能代市出身。2児の母。

なつかのおつまみ畑の大ファン。

 

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