つばめのたからものvol.8

自然体験を通じて子どもを育む
―センス・オブ・しわンダー

​​紫波町には、自分が持つ
「好き!」「やりたい!」という気持ちを
原動力に活動をしている方々が沢山いる。

そんな方々の大切なたからものを
見せていただく気持ちでお話を伺うコーナー
【つばめのたからもの】。

このキノコは食べられるかな?

「センス・オブ・しわンダー」という、親子を対象にした自然体験イベントを開催している任意団体を、みなさんはご存知でしょうか。

今回は代表の岡田さんと、その協力者でもあり、伴走者でもある平さんにお話を伺いました。

どんな活動をしていますか。

岡田 2022年から親子向けに自然体験ができるイベントを企画・運営しています。本業が大学の技術職員で、森林インストラクターという資格を持っているのですが、その資格と男の子2人の育児経験を活かして、町内をフィールドにした自然体験イベントを企画しています。生き物観察会や里山暮らし体験など、季節ごとの自然の魅力を最大限に感じられるような内容にしています。

代表の岡田さん

「センス・オブ・しわンダー」の由来は?

岡田 「センス・オブ・しわンダー」は、レイチェル・カーソンの著書である『センス・オブ・ワンダー』が由来です。『センス・オブ・ワンダー』は、「神秘さや不思議さに目を見はる感性」という意味。小さな子どもをもつ親に向けて自然の美しさを伝えるために書かれた本で、この本のように、子どもたちと親御さんに町の自然が素敵なものだと気づいてもらいたい、という思いを込めました。

大きな葉っぱをわしづかみ!

活動を始めたきっかけは?

岡田 きっかけは2つあります。

まずは、働きながら通っていた大学院で専攻した「森林環境教育」や、仕事で小学生向けの公開講座に関わるなかで、幼児期における自然体験の重要性を感じたことです。
あるとき、公開講座で焚火を見た子どもが「わあ~、CGみたい!」って言ったんです。「この年齢になるまで、全く火を見ないで育った子どもがいるんだ」と、衝撃を受けました。自分の子どもはもちろんですが、火の怖さを知りつつも、安全に使える子どもが増えたらいいですよね。

2つめは、2018年に長男、2020年に次男を出産したのですが、コロナ禍で子ども同士の触れ合いが少ないと感じていたからです。外のイベントなら3密になりにくいので、紫波町で自然体験ができるイベントをやってみたいと考えるようになりました。
以前つばめの森でも紹介されていた、
ママ向けサークル「ひまわり」のお花見イベントに参加した際に、大きなミミズが出てきました。子どもたちにミミズに興味を持つよう声かけをすると、興味津々で観察してくれました。その様子を見て、活動開始への想いがさらに強くなりました。

気持ちの良い青空の下での活動の様子

協力者である平さんとの出会いは?

岡田 平さんのことを知ったのは、町の広報紙がきっかけでした。そこからSNSをフォローして、平さんが主催する「あそびこむ」のイベントに参加して…というのがはじまりでした。

 岡田さんがイベントに参加してくれたのは、協力隊活動2年目の終わり頃、2019年だったと思います。

私はもともと、ボーイスカウトをして育ったので、自然体験や自然あそびを軸にしていきたいと思っていて。私は保育士免許を持っているので、子どもの相手をすることは得意なんですが、自然の中でのイベントとなると、危険察知もできないし、専門家ではないから「この植物何?」って聞かれても答えられないし、一人でやるのは心配だったんです。

自然遊びの本当の楽しさって、自然の中にあるよくわからないものや普段出会わないものに遭遇したときに「なんだろう?」という好奇心を持つことだと思うんです。子どもの中でふつふつと湧き上がる“わくわくの種”のような好奇心からくる突発的な質問に、先生のような立場で答えてくれる岡田さんの存在がすごく大きくて。2021年の9月に「あそびこむ」のイベントに講師として来てもらい、それから一緒に活動するようになりました。

元地域おこし協力隊、「あそびこむ」代表の平さん

岡田 紫波町で子ども向けのイベントをやっている先駆者的な存在が平さんでした。平さんと出会っていなければ、「自分もやってみよう」という気持ちにはならなかったと思います。

何気なく、大学時代に調査の一環として紫外線ライトを使って”クスサン”という大きな()をひたすら集めた経験があると平さんに話したことがあります。自分としては苦労した、どちらかというとマイナスの経験だったのですが、
平さんから「それ楽しそう!」という前向きなリアクションをもらって、「昆虫のライトトラップ」というイベントの企画につながりました。参加者からもすごく好評で、自分にとっては何気ない経験でも、多くの人に喜んでもらえるヒントになるんだなと感じました。

好評だったイベント「昆虫のライトトラップ」

 お互いの専門領域が違うからこそ起こる化学変化があるように思います。これまで私が開催してきた野外イベントは、どちらかというと一般的な受け入れやすさを優先した、たとえば「キャンプ体験」のような、ちょっとミーハーな感じのものになりがちでした。だけど本当は、「参加費を払ってピザが食べられます」というような、目的のために参加してもらうイベントではなく、ただただ「自然と一緒にいる、自然を感じる、好奇心をくすぐられる」というような“日常に近い森体験”を味わってほしいんです。それが、岡田さんと一緒だったら実現できるんじゃないかなと思っています。

何の足跡だろう?

岡田 私は子育て経験があるとはいっても、対象が自分の子どもだけなので。保育士の資格をもっていて、いろんな子どもといろんな経験をしている平さんが一緒だと、うちの子どもも見てもらいながら、イベントもうまく回してくれて…というところにすごく助けられています。

お互いの存在に助けられている、と話すお二人

町の「地域づくり活動補助金」を活用していると聞きましたが…

岡田 自然の中で行う活動ということもあって、安心安全のために、傷害保険料やスタッフ確保のための人件費などのコストがかかるのですが、一方で、できるだけ多くの方に参加していただきたいので、参加費を抑えたいと考えていました。

次男の育休中に、SNSを通じて、「STSH(エスティーエスエイチ)」という高校生団体が町の「地域づくり活動補助金」を活用して英語版の紫波町観光ガイドブックを制作していることを知りました。

その後、「あそびこむ」のイベントでこの補助金を活用したことがある人と知り合い、申請書の書き方を教えてもらったりしながら申請をして、2022年度に採択いただきました。

▶ 「地域づくり活動補助金」の概要はこちら

 岡田さんと活動開始前に打合せをした際、「でも、子どもがいるからなー…」と何度も口にしていたのが印象に残っています。そこで、「岡田さんが子どもを連れてでもできることにしようよ!」と、最初に決めたんです。活動を続けていくためには、補助金の活用もそうですが、「自分たちが無理をしないようにする」ことが大切だなと思っています。

参加者の反応はどうですか?

岡田 一般的に、子ども向けのイベントとなると、お母さんが子どもを連れてくることが多いのですが、自然の中でのイベントとなるとお父さんの手も借りないと大変という側面があります。なので、家族総出で参加してくれる方も多いです。
必ずと言っていいほど、子ども以上にお父さんがはしゃいで、楽しんでくれています(笑)。

 火起こしで、子どもはとっくに飽きているのにお父さんが一番ムキになってたりね(笑)。
「親では教えられないことを教えてくれたり、子どもと一緒に没頭することができて良かった」という感想をいただいたこともあります。親も童心に返って子どもと一緒に楽しめることも、自然あそびの魅力の一つかもしれません。

岡田 自然が好きな人が集まるので、「あの時期は、城山にオニヤンマがたくさんいるよ」などと虫取りスポットの情報交換をしたり、親同士のコミュニケーションが生まれているのも嬉しいですね。

雪遊びは、大人も全力で楽しみました

「やりたいこと」を実現しているお二人から、「やりたいことがわからない」という方へのメッセージをお願いします!

岡田 自分の考えを人に話してみることが大事だと思います。
調査の経験がイベントの企画になったように、人に話すことで、よりアイディアが膨らんでいきますし、話を肯定してもらうことで、自信がついて行動に移せる原動力になるのかなと。発信することによって共感者が現れたりもするので。自分の中にずっと秘めているよりも、人に話してみたり、SNSで発信してみるといいと思います。

自分の考えを発信することが大切、と話す岡田さん

 私は、「誰もが自分らしく生きられる社会をつくりたい」というのが人生の夢なんです。立派なものじゃなくても、「これをやってるとき、ほっとするな」と感じる瞬間とか、ついついとってしまう行動ってあるじゃないですか。私は子どもが好きだから、町で子どもが歩いているとついつい見ちゃって、なんだかほほえましくて幸せな気持ちになるんですよね。

そういう小さな幸せや行動を、「自分はこれが好きなのかも」と認めてあげることが大切だと思います。そう思うだけで、「子ども向けの何かに参加してみようかな」とか、「絵本の読み聞かせボランティアやってみようかな」という行動につながる気がします。

「小さな自分の“好き”を、ちょっと育ててあげる」ということが、人生の自己実現にきっとつながると思うんです。

自分の小さな心の動きに気づき、認めることが第一歩と話す平さん

「センス・オブ・しわンダー」は、2023年度も年4回程度のイベントを開催する予定です。
最新のイベント情報は、Instagramからチェックしてみてくださいね。

最後に、岡田さんが感銘を受け、活動の指針とした『センス・オブ・ワンダー』からの一節を引用します。

『生まれつきそなわっている子どもの「センス・オブ・ワンダー」をいつも新鮮にたもちつづけるためには、わたしたちが住んでいる世界のよろこび、感激、神秘などを子どもといっしょに再発見し、感動を分かち合ってくれる大人が、すくなくともひとり、そばにいる必要があります。(中略)
もし、あなた自身は自然への知識をほんのすこししかもっていないと感じていたとしても、親として、たくさんのことを子どもにしてやることができます。
たとえば、子どもといっしょに空を見あげてみましょう。…子どもといっしょに風の音をきくこともできます。…雨の日には外にでて、雨に顔を打たせながら、海から空、そして地上へと姿をかえていくひとしずくの水の長い旅路に思いをめぐらせることもできるでしょう。』

Carson, Rachel, 1965, The Sense of Wonder: A Celebration of Nature for Parents and Children
(上遠恵子訳, 1996年, 『センス・オブ・ワンダー』新潮社)より引用

話を聞いた人

・岡田菜月(オカダナツキ)

1989517日生まれ。

紫波町出身。大学職員(技術職)/森林インストラクター。

2022年から幼児向け自然体験を企画・実施する「センス・オブ・しわンダー」として活動を開始。

Instagramhttps://www.instagram.com/sense_of_shiwander/

 

・平真弓(タイラマユミ)

1992918日生まれ。

茨城県出身。2017年より紫波町在住。パラレルキャリア保育士。

こどもの居場所をつくる「あそびこむ」代表。

Instagramhttps://www.instagram.com/shiwagurashi/

 

記事を書いた人

・冨澤有華(トミサワユウカ)

199361日生まれ。

北上市出身。紫波町1年生。

ついついやってしまうことは、歩道にできた氷をかかと落としで割ること。

最近こっそり4コマ漫画を書き始める。

 

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