つばめのたまごvol.4

ほおずき畑からのメッセージ

食べられるほおづきの味をご存知でしょうか。
珍しい食材「フルーツほおづき」を栽培する若者が一人、
農業の魅力発信に向けて、ここ紫波町で活動しているようです。

北上川のそばにひっそりと佇む、紫波町古館地区のとある畑。

「ほっちゃんのほおずき畑」と名付けられた畑には、「フルーツほおずき」と呼ばれる、食べられるほおずきの実が生っています。

つるっと丸く、黄色くて甘い、珍しい作物を紫波町で栽培しつつ、農業の魅力発信に挑戦しているのは、紫波町地域おこし協力隊の村上一江さんです。

手書きの看板の前で、笑顔の村上さん

農業系の高校・大学で農業全般を学んだ後、2023年5月に「農村まちづくりコーディネート担当」の地域おこし協力隊として着任。岩手県岩泉町出身の村上さんは、高校生の時に紫波町在住の友人の家を訪れ、「こんな町に住んでみたい」と魅力を感じたのがきっかけの一つで移住しています。
現在23才の村上さん。若くして「農業を広めたい」という思いを持ち、町内で活動するに至った経緯は一体どのようなものなのでしょうか?

協力隊の活動では、どのようなことを?

村上 「若者を中心とした人々へ農業に興味を持ってもらう」という目標のもと活動をしています。1年目の今は、同じく協力隊として活動する岡本夏佳さんの農作業のお手伝いをしたり、一緒に畑のイベントを開催することが多いです。活動の一つである「平井邸はたけ部」では副部長として、「農作物を育ててみたい!」という人たちと集まって活動しています。
自分自身は「フルーツほおずき」の栽培をしていて、ほおずきの魅力や農業自体の楽しさをSNSなどで発信している最中です。

「おつまみ畑」のお手伝いをする村上さん

紫波町への移住の決め手は?

村上 紫波町の地域おこし協力隊の募集を見て、ここなら「農業を広めること」を中心に活動できそうだ、と思えたのが一つの理由です。たいてい、農業系の協力隊の募集は「就農する」という条件が付いているんですが、紫波町はそれに縛られていないのが他との違いですね。自分自身が農業をするというより、「農家さんと農家を目指す人をつなぐ企画を起こす人」という立場を受け入れてくれる環境があります。
それと、高校の時に訪れて見た紫波町の景色がすごく好きだった、という印象も後押ししています。やりたいことができる環境と、住みたい場所が一致したのが紫波町でした。

紫波で発見した、高所から見下ろす街並みと辺り一面のコスモス畑!

学生時代は何を学んでいましたか?

村上 盛岡農業高校では牛のお世話からお米、果樹、野菜、花など、農業に関して広く学びました。元々お花の栽培をやりたくて植物科学科にいたのですが、農業全般を学ぶうちに野菜に興味を持ち、後のコース選択では野菜研究班を選びました。大学進学の時には町おこしに興味を持ち始めたのですが、当時の私は「栽培技術がなく人に広めることができない!」と思いました。
そこで岩手県立農業大学校の野菜経営科という野菜専門の学科に入学し、そこでは2年間ずっと畑にいる生活をしていました。今度は加工技術や経済といった栽培以外の知識が必要になり、新潟大学農学部に編入し、町おこしや農業経済について2年間学んで卒業して…現在ここにいます。

今はどんなものを育てていますか?

村上 食用ほおずきです。食用ほおずきは南米原産のナス科の植物で、ベージュ色のかわいらしい見た目が特徴的です。甘みと酸味のバランスが良く、栄養価も高いことから「スーパーフード」とも呼ばれています。私が栽培しているものはフルーツほおずきと呼んでいます。

村上さんの手がけたフルーツほおずき

最初にフルーツほおずきに着目したのは、農業大学校の卒業研究のテーマに選んだ時でした。出身地の岩泉町でフルーツほおずきの栽培があるのを知り、その珍しさから町おこしに使えるのではと選びました。新潟大学編入後の卒業論文もフルーツほおずきをテーマにしていて、その延長で紫波町でもフルーツほおずき栽培に挑戦しています。

意外にも、紫波町の赤沢地区でもフルーツほおずきを栽培している団体があることを移住後に知りました。今後はそちらとも関わりながら、町内でも広まっていくことを期待しています。

黄金色の宝石のような実で、芳醇な味わいがたまりません

町おこしへの強い思いを感じますね。その気持ちはどこから来ているのでしょうか?

村上 町おこしに興味を持ったのは、祖母の農業引退がきっかけです。自分の身内がそうだったという経験から、地元で農業をやめる高齢者が多いことや若い就農者が少ないことを強く実感しました。
そこで自分一人が農業を始めるより、若者である自分が同年代に農業に興味を持ってもらえる活動をすれば、全体的に農家になる人が増えるんじゃないかと考えました。地元の農家を増やすことは、農業を活用した一種の町おこしだと思っています。

農業に興味を持ったポイントは?

村上 小学校低学年の頃は関東に住んでいて、自然に触れることが少なかったんです。それから祖母の住んでいる岩泉町に住むことになり、転校先の小学校でそばの栽培・収穫・そば打ちまでの体験をして、自分たちで育てたものを食べた経験が、新鮮で楽しかったというのが農業に惹かれた理由の一つでした。学校以外でも、祖母が一番農業を教えてくれていて、祖母と一緒に農作業する時間が大好きだったことも関わっています。
その頃から農家を目指そうと思っていたわけではありません。職業選択の基準として、一番に「楽しい」と思えることを大事にしているんですが、今まで楽しいと思ったことってなんだろう?と考えた時に「農業」が楽しかったのを思い出しました。そのくらい良い思い出として残っていたんです。

農業で大変なことや、やりがいは?

村上 自分は元々体を動かすのは好きなので、農作業自体は「楽しい」という気持ちが一番にあります。強いて言えば、大変なところは天候や獣害などの自然に左右されるところです。今年は、暑い日が続いたのでフルーツほおずきがうまく育ちませんでした。自分が大変というより、天気など、自分がコントロールできない部分に苦労しますね。そんな中、収穫できた時は一番やりがいを感じます。育てるのは大変ですが、その結果として作物が採れることに達成感がありますね。

夕方に役場1階や、隣の矢巾町にある「くるみアパートメント」のファーマーズマーケットに出店したり、いろいろ販売する機会もありました。コロナ禍では試食ができなかったのが、最近ではできるようになり、その場で食べてもらって「おいしい」と分かってくれた人が買ってくださっています。フルーツほおずきのように、珍しくて価格帯の高い食べ物は特に、実際に食べてもらわないと買うまでに踏み込めないので、試食していただく効果は大きいですね。その場で感想が聞けるのも嬉しいです。

役場1階でカラフルな野菜を販売されていました

農業体験ができるイベントも企画されているのですか?

村上 日詰商店街の平井邸で、「平井邸はたけ部」として週1回程度で活動をしています。この活動は、いろんな作物の栽培作業を誰でも気軽に体験できる、農業の部活動です。
お子さんから大学生、定年退職後に家庭菜園を始めたいという年配の方まで来るので、参加者の年齢層は広いですね。意外と農家さんはいなくて、経験量的には小学校の時に体験したよ、くらいの人が多いです。あとはお家のプランターで家庭菜園をしていて、栽培方法の相談に来る人もいます。平井邸のSNSから知った人がよく来ていて、盛岡市や遠野市など町外から来る人も結構います。

平井邸はたけ部のみんなと一緒に作物を育てています

平井邸はたけ部の部員は10人くらいで、畑の規模にはちょうど良いくらいなんですが、私たち個人で開くイベントではなかなか集まらないのが悩みです。食べ物を扱うイベントなので、10人以上来てもらえた方が賑やかでいいなと思います。SNSでの告知だけでは気づかれにくく、私たちが直接声をかけることでやっと「こんなイベントあったんだ!」と知って来てもらえることが多いので、呼び込みは今後の課題ですね。

そんな中、「平井邸BBQ」ではいつもより多くの人が来てくれました。平井邸はたけ部で育てた作物をいろんな方々に収穫してもらってその場で芋煮の材料にしたり、採れたての野菜を炭火で焼いたり、子どもたちにも好評でした。小さい頃に自分で収穫したものをその場で調理して食べる、という流れを一回に経験することってなかなか無いと思うので、いい機会がつくれたなと手応えを感じています。

平井邸でのBBQ。子どもも大人も夢中です

今後の目標は?

村上 今後は、フルーツほおずきを通して農業の楽しさを広めることを実践していきたいと思います。本来なら今年からフルーツほおずきの発信をしたりイベントを開きたかったんですが、フルーツほおずきが育たずイベント開催までたどり着けませんでした。栽培だけではなく、フルーツほおずきで人を呼べる場を作りたいなと思っています。

あとは、もっと町内の農家さんと交流して、これから町でどういうことができるかを一緒に考えていきたいと思っています。出会った農家さんに自分のやりたいことを伝えると、否定せず応援してくれたり、アドバイスをいただいたり、出会った一人一人から刺激をもらっていますね。積極的に意見を言ってくださるので、自分の考えも良い方向に変化していっているなと感じます。

同じ世代の、農家を目指す若者に一言!

村上 最初から農業一筋でやりたいって決めて始める人は少ないと思います。やっぱり勇気の要ることだし、将来の不安や、色々な困難があるとは思いますが、「農業をやってみたい」という思いがある人は私たちの活動する畑に来てもらえればと思います。そこから就農を考えるきっかけになれれば嬉しいです!

生き生きと日々の様子を話す村上さん。

フルーツほおずき畑や平井邸はたけ部から発信されるのは、「農業は楽しい」という心からのメッセージだった。

チャレンジができるまち・紫波町で、あなたも挑戦してみませんか?

平井邸はたけ部 部員募集中!
100年の時が流れる庭にみんなの「はたけ」を。 (hiraroku.com)

冬季も引き続き活動を行います。
令和5年12月30日(土)に、もちつきのイベントを予定していますので、お気軽にご参加ください! その他にも味噌づくりなどワークショップを企画中です。

実際の畑での活動の様子は、村上さんのプロフィールにあるInstagramでも見ることができます。気になったらぜひ足を運んでみてください!

話を聞いた人

村上一江(ムラカミカズエ)

2000年4月4日生まれ、おひつじ座・B型。
岩泉町出身。

自分がやりたいことを人に話しながら7年間農業を学び続けていたら、
紫波町の地域おこし協力隊になれました!

Instagram
http://www.instagram.com/usa__k4/.

 

話を書いた人

佐藤遥華(サトウハルカ)

2001年7月18日生まれ、かに座・B型。
紫波町出身。

村上さんの育てたフルーツほおずきを食べて味にひとめぼれしました。フルーツほおずきのイベントが開かれたら参加する気満々。

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